TBSラジオ『東京ポッド許可局』の中でプチ鹿島さん、マキタスポーツさん、サンキュータツオさんが昨今流行りの「不謹慎狩り」についてトーク。不謹慎狩りの源である「昂ぶり」や、ゾンビとの共通点などについて話していました。
(プチ鹿島)「不謹慎狩り」って、最近よく聞くじゃないですか。
(マキタスポーツ)ああ、最近のね。
(プチ鹿島)あれ、どう思いますか? まず、タツオくん。言葉の使い方として、どうなの? あれ。
(サンキュータツオ)「不謹慎だ」と言って人を狩る人だよね。だから、発信元自身が不謹慎なわけじゃなくて。「はい、これは不謹慎です」って言って、その人を狩るってことだよね。だから「オヤジ狩り」とか「イチゴ狩り」は「オヤジを狩る」「イチゴを狩る」だけど、不謹慎を狩っているわけじゃなくて、「不謹慎だと思ってその人を狩る」と。
(プチ鹿島)なるほど。
(サンキュータツオ)っていうことだから、ちょっといままでと違う言葉だなと思った。だから「不謹慎だと思う人狩り」と。
(プチ鹿島)俺が思う人。
(サンキュータツオ)そうそう。「俺が思う不謹慎狩り」っていうことなんで。不謹慎かどうかは狩る人の主観によっているなと思って。
(プチ鹿島)ねえ。僕、いろいろほら、スポーツ新聞とか読むの好きなんですけど。たしか、先週の東スポが不謹慎狩りっていうのを一面で特集したんですよ。
(サンキュータツオ)ああ、東スポすごい。キャッチライターじゃないですか。
(プチ鹿島)たとえば、びっくりするのがInstagramでね、笑顔で写真を上げた芸能人たち、不謹慎じゃないですか。
(サンキュータツオ)(笑)
(プチ鹿島)本当に。これ、笑ったら不謹慎ですよ。もうそういう、ありとあらゆる……で、藤原紀香さんがブログでね、「どうかこれ以上、被害が広がりませんように。火の国の神様、どうかどうかもうやめてください」って言ったら、「何様だ!」っていう。
(サンキュータツオ)(笑)
(プチ鹿島)まあ藤原紀香さんはでも、そういう……
(マキタスポーツ)紀香様だから。
(プチ鹿島)もうジャンルを背負っている人ですからね。「藤原紀香」というジャンルの神様だから、もう神様同士の話だからしょうがないと思うんですけど。
(サンキュータツオ)ポエムだよ。
(プチ鹿島)で、他にもたとえばですよ、井上晴美さんですよね。井上晴美さん、なんで言われているのかよくわからないんですけど。熊本で被災して、それをブログでアップしたらなんか……
(サンキュータツオ)「売名行為だ!」なんて。
(マキタスポーツ)「そんな暇があったらいけない!」みたいな。そういうことだよね。
(プチ鹿島)あと、紗絵子ですよね。極めつけは。500万円を寄付して、あの人が振込証明証かなにかをネットにアップした。で、それに対して当然、予想通りきたっていう。で、紗絵子の場合はそれを先回りしてね、「じゃあお前ら、できんのか?」っていう。そういう「不謹慎狩り狩り」だと思うんですよね。「じゃあお前ら、できんの?」っていう。そういうのは、何なのかな?って思って。まあ許可局でもずっと話していたと思うんですよ。『一億総ツッコミ時代』とかね、その頃からやっていましたけど。
(マキタスポーツ)うん。
(プチ鹿島)いろんな理由を考えてきたじゃないですか。もしかしたら、現実が特に何もないから他者に当たるとか。どんどんどんどん潔癖症に。マキタさんの前の話、よかったじゃないですか。一人暮らしで潔癖症になればなるほど……
(マキタスポーツ)外圧がないとね、どんどん潔癖症になって。他人に対して不寛容になっちゃった。
[リンク]「どうでもいい」を持ってますか?スマホ時代に考える(東京ポッド許可局)
http://www.tbsradio.jp/26657
(プチ鹿島)で、その時にTwitterとかあれば、とんでもないバケモノになっていたわけでしょ?
(マキタスポーツ)バケモノ。モンスターでしたよ。
(サンキュータツオ)あとは「ズルい!」って思っちゃうんだよね。芸能人とかに対して。
(プチ鹿島)そう。だから「あいつ、ズルい! なんであいつが?」っていう感情もあるんじゃないかとか。
(サンキュータツオ)だから猫ひろしがカンボジア国籍を取るみたいな時も、やっぱりすごい叩かれましたよね。それもなんか、別にどうでもいいことじゃないですか。自分にとったらどうでもいいっていうか。別に親戚でもないし。彼の国籍がどうであれ、自分には全く影響がないけれども、「不謹慎!」みたいな怒り方をするって。だから怒り場所を探しているだけだよね?
(マキタスポーツ)「不謹慎、ないかな?」って探しているんでしょ? 朝、電車とかに乗りながら。
(サンキュータツオ)そうそう。不謹慎Gメンなわけですよ。
(プチ鹿島)僕、3.11の時に思ったんですけど。みんな、昂ぶる(たかぶる)じゃないですか。非日常だから。だからもちろんそれが、「じゃあ善意を発揮しなければ!」っていういい方向に転がる人もいると思うんですけど。みんな昂ぶっているから、さらにこういう目立った人が来ると……
(マキタスポーツ)「昂ぶっている」っていう言葉、いいね(笑)。
みんなが昂ぶっているシチュエーション
(プチ鹿島)そう! だから俺、気をつけようって自分で書いたんだもん。「昂ぶるな」と。それが、良かれと思って悪い方向に行っちゃう。で、真偽不明な情報も、「ああ、これは早く知せなくちゃ!」っていう善意と、もしかしたら「あなた、これ知ってる?」っていう多少の優越感が混じっちゃって。すぐにリツイートしちゃう。それが、結局デマだったっていう可能性もあるじゃないですか。(マキタスポーツ)それ、いま話を聞いていてさ、すごい思い出したのは江川卓の記者会見を思い出したんだよ(笑)。あれ、「興奮しないでください!」って言って、PK(プチ鹿島)がそれを迂闊に言ったら、あの頃の江川みたいに叩かれそうだよね。
(プチ鹿島)そうです。そうです。
(マキタスポーツ)でも、昂ぶっているんだよね。あの時の江川に対しての記者って、ものすげー昂ぶってた!
(プチ鹿島)だって、怒っている人だけじゃないんですよ。「あっ、どうしよう、どうしよう……これ、みんなでがんばろう!」っていうのも昂ぶりじゃないですか。いわゆる非日常ですよ。ただそれが、マイナスに出ちゃうと思うんですよ。たとえばデマの拡散って僕、そういうことだと思うんですよね。一部の悪意の人が確信犯的に「ライオンが逃げた」って。で、それを見ちゃった人は、「ああ、どうしよう、どうしよう。教えてあげなくちゃ!」っていう善意と、もしかしたら、「この情報、まだみんな知らないな。よし、じゃあ教えてやれ!」っていう多少の優越感もミックスされて。昂ぶりじゃないですか。
(サンキュータツオ)余計なお世話だよ(笑)。
(プチ鹿島)昂ぶりですよ。だって、毎日放送の弁当アナウンサーが怒られてましたけど。弁当を……
(サンキュータツオ)あれ、俺の同級生だよ。
(プチ鹿島)あらっ!
(サンキュータツオ)俺の同級生。高校の。
(プチ鹿島)じゃあ叩いてやる、俺。
(サンキュータツオ)なんでだよ!(笑)。
(マキタスポーツ)昂ぶりだよ(笑)。
(プチ鹿島)要は結局あの人の構図も昂ぶりなんですよ。要は、たしかにマスコミでずっと取材して。で、やっと「ご飯をいただきます」って、美味しそうな弁当をアップして。
(サンキュータツオ)じゃあ「食うな」っていう話なのかい!っていう感じじゃん(笑)。
(プチ鹿島)だからあれも昂ぶりなんですよ。いや、本当に。
(マキタ・タツオ)(笑)
(マキタスポーツ)俺、「昂ぶり」すげー面白いよ(笑)。
(プチ鹿島)テンションで。で、それに対して「食べられない人もいるのに、弁当をアップして!」っていうのも昂ぶりじゃないですか。だから僕は昂ぶりを気をつけよう、気をつけようと思うんです。本当に。どっちにも転がると思う。
(サンキュータツオ)「荒ぶり」より面白いよね。「昂ぶり」。
(マキタスポーツ)「おっ、昂ぶってるぞ!」って。
(プチ鹿島)そう。
(サンキュータツオ)でも本当に「サイレント・マジョリティ」ってよく言ったもので。そんなの全く見たって何も感じないし……
(マキタスポーツ)「サイレント・タカブリィ」が。
(サンキュータツオ)サイレントじゃねえよ、それ、もう(笑)。だって普通、なにも発信しないじゃん。
(プチ鹿島)本当、そう思うんですよ。みんな非日常で異様なテンションになっちゃう。で、誰かのためにって。で、しかもよーく考えたらだって井上晴美さんなんて、被災されてブログでアップして。なんでそれが売名行為なんですか? だからそれの元をただすと、結局「目立つ奴が嫌い」というか、うっとりしている姿を見せられるのが鼻につくのが嫌だっていう。そういうことになるんじゃないかと。
(サンキュータツオ)いかにも日本人だな―!
(マキタスポーツ)でもさ、そういう昂ぶりっていうのは、ちょっと伝播していく……なんかパンデミックとかって言うけどさ。感染していってるんじゃないの? 悪意みたいなものが。そういう意味で。
(プチ鹿島)だからそういう、悪意を確信犯的にやっている人もいるけど、昂ぶることによってそれに加担してしまう人がいる。さらに、他人のちょっと目立つようなところでは突っ込みやすい状況ができるっていう意味で。だから、「お前が目立つのが不快だ」っていうのが不謹慎っていう大義名分にすごく使われているんじゃないか?って僕は、ここまで思ったんですよ。で、あるところで書いたんですよ。たしかに、「ああ、そうだな」みたいな、たくさん反響はいただいたんですけど。
(サンキュータツオ)うん。
(プチ鹿島)その次の日に僕、『アイアムアヒーロー』っていう映画を見たいんですよ。マキタさん、出てますよね。
(マキタスポーツ)出てますよ。
(サンキュータツオ)マキタスポーツも出ている。
(プチ鹿島)そうですよ。で、それはZQN(ゾキュン)っていうある種のウィルスにかかった人に噛まれると、要はゾンビになるわけです。で、噛まれたら自分もゾンビになっちゃう。で、フラフラして次の噛む相手を探すんですよ。俺、「不謹慎狩りってもうゾンビだと思えばいいんじゃないかな?」と思ったんですよ。
(サンキュータツオ)なるほど!
(プチ鹿島)そこにもう、意味すらないんじゃないかなって。
(マキタスポーツ)だから、昂ぶりでしょ?
(サンキュータツオ)昂ぶりゾンビだ。正義ゾンビ。
不謹慎狩り=ゾンビ
(プチ鹿島)そこに、たとえば他の人が不快だから嫌だとか、あいつ鼻につくとか、僕らがいままで話した「悪い子はいねえか?」とか。永遠の学級会とか。そういう何かの理由があって目を光らせている。もしくは、ただ暇なのかもしれない。(マキタスポーツ)「抑圧があって……」とかね。そういう物語でしょ?
(プチ鹿島)そういう理由をいろいろ考えてきたけど、もはや理由なく、ただ噛みつきたいだけなんじゃないか?って。だから、誤解ないように言えば、ゾンビになっちゃう人って悪意がないじゃないですか。だってもう、自分が噛みたいだけで。
(マキタスポーツ)「悪意」という物語すらないと。
(プチ鹿島)そりゃそうですよ。で、不謹慎狩りの人も、それは悪意はないですよ。だって自分は正義だと思ってやっているわけだから。一部の確信犯の悪意はありますよ。だけど、大概は善意だと思って、正義だと思ってやっているから。あれはやっぱりそういう、正義ウィルスっていうのにかかっちゃって。ただ相手に噛みつきたい。目立ったやつに噛みつきたいだけだって思うようにしたら、ちょっとすっきりしたんですよ。そこにもう、理由はない。そうすると、社会的格差とか身分とか年収とか、関係ないじゃないですか。もう、ウィルスにかかったらお金持ちの人だろうが、リア充だろうがなんだろうが、相手に噛みつきたい。なんだったら、自分が幸せだからこそ、相手の鼻につくところとか噛みつく人もいるかもしれないじゃない。
(サンキュータツオ)うん。
(プチ鹿島)そう思ったんです。だから俺、「不謹慎狩りゾンビ説」って考えたら、もはや理由すらないって。
(サンキュータツオ)本当、そうだわ。しかもそれって、すごく日本の社会と言ったら大げさかもしれないけど。よく、ハーフの人とかさ、外国人もそうなんだけど。やっぱり日本のイジメの構造の根幹に、「他の人と違う人をいじめる」っていう文化があると。たとえば、有名人とか。で、そういう人たちのうっとりしたポエムっぽいコメントとかを見て腹が立つ。そうすると、その人を叩く。これ、日本の学校社会のイジメとほぼ同じ構造だよね。だから普通の人、普通の常識、みんなが持っている正義を振りかざして、そうじゃない人を叩くっていうのは。
(プチ鹿島)だからここ数年でもちょっと思い出してみればわかるんですけど。じゃあそれが行き進むと、一方で何が出てくるか?っつったら、「美談」なんですよ。
(マキタスポーツ)うん。
(プチ鹿島)美談はどんなに盛ってもOKみたいに受け入れられちゃうわけですよ。いい話。
(サンキュータツオ)気持ち悪い。だから、美談と正義って突っ込みようがないでしょ? だから突っ込みようがないものって、怪しいと思わなきゃダメ。
(プチ鹿島)そう。で、美談と正義って被害者がいないからね。それを掲げている分にはね。
(サンキュータツオ)そうそうそう。だから、被害者がいないかのように思わせて、美談と正義を振り回す人っていうのはやっぱり錬金術士だよ。この時代はやっぱり、危険な怪しい人だと思うよね。
(プチ鹿島)「永遠の学級会」って菊地(成孔)さんが言いましたよね。たしかにそうで。そういう狭量的な、「○○さんが悪いと思います」って。まあ、なまはげ社会かも知れないですよ。「悪い子はいねえか?」って。
(サンキュータツオ)うんうん。
(プチ鹿島)っていう理由もずっと考えてきたんです。で、鼻につくやつが嫌だっていう。だけど、やっぱりウィルスって考えた方が、そこに理由はない。噛みつきたいだけだって。で、あの映画の中でさ、最初のシーンで言ってましたよね。塚地さんがやっている漫画家のアシスタントが。マキタさんが売れっ子漫画家の役なんですよ。で、アシスタントがそういうパニックになるにつれて、もうみんな世の中がひっくり返れば全て同じ価値になるから。やっと……自分のことをオタクって言っていたじゃないですか。オタクの方がウィルスにかからないから。「いよいよ俺たちニートの番だ」みたいな。
(サンキュータツオ)ああー。
(プチ鹿島)そういう価値観ってでも、ちょっと似てるんじゃないかな?って思うんですよ。少なくとも、目立つやつを狙い撃ちにすれば、価値を引きずり込むことができますよね。そうすると、変にフラットになりますよ。そういう逆革命みたいなのが根底にもあるのかな? とか、いろいろ考えたんですけども。でもやっぱり、ウィルス・ゾンビって考えた方が。「噛みたいだけだ」って思った方が、僕はわかりやすく考えたんですよね。
(サンキュータツオ)あの、「意識高い系」っていう言葉があるじゃないですか。もともとはそんなにバカにしたニュアンスではなかったんですけど。就職活動とかで。
(マキタスポーツ)「意識が高いね」って。
(プチ鹿島)褒め言葉ですよね。
(サンキュータツオ)だったのが、就職活動中に「ああ、あの人は意識高いね」みたいなのが「(笑)」になっていったわけですよ。「ああ、意識高い系の人だ(笑)」みたいな。だからまず、意識高い系みたいなのも、たぶん同じ構造なんじゃないかって思うんですよね。
(プチ鹿島)だから本当に意識高い系をふるまって、かっこ悪い、笑っちゃうような人もいるんだけど。そうじゃなくて、本当にちゃんとして意識高くてバリバリやっている人を「(笑)」にすることで自分の中で引きずり下ろすことができるっていう発想はちょっと理解できるかもしれない。
(サンキュータツオ)だけど、この先たぶん不謹慎狩りも「(笑)」になると思うんだよね。「あ、この人、不謹慎狩りしてる(笑)」みたいな。
(マキタスポーツ)でも、さっき俺、ひとつのタームで面白かったのが「昂ぶり」っていう印をつけると、途端に恥ずかしい……だって、「興奮している人」っていうことになるからね。
(サンキュータツオ)いきり立っているっていうことだもん。
(マキタスポーツ)で、正義っていう欲望のためにものすげー開放感を得ちゃっているなってことじゃん、それ。
(プチ鹿島)そうだよ。「じゃあ、私がなんとかしなきゃ!」って。それは素晴らしいですけど。その昂ぶりって、どっちに転ぶかわからないですよ。
(サンキュータツオ)だからもう、正義と美談っていうすっごく安全な場所から、人を突き落とすわけでしょ? それってだから醜い行為というかね、「(笑)」になると思うんだよね。そういう風にしていかないと……
(マキタスポーツ)でも、その昂ぶりが昂ぶりを呼んでいくっていう負の連鎖もあるよね。
(プチ鹿島)そうそう。
(サンキュータツオ)昂ぶりが昂ぶりを呼ぶ(笑)。
(プチ鹿島)だって、毎日放送の一連のなんて、どっちも昂ぶりなんだから。「今日、俺がんばった。取材した。じゃあ、弁当をUP」って、もううっとりですよね。だから人のうっとりを見るのが嫌いなんですよ。やっぱり。結局、その話をすると、それに対してカチンと来るということは、たぶんみんな多かれ少なかれ、人のがんばっている姿とかうっとりしている姿って苦手だと思うんですよ。でも、善意と悪意だけでやっぱり人を考えているからそうなっちゃうと思うんですよね。
(サンキュータツオ)そうだよね。
(プチ鹿島)やっぱり何らかの売名行為だって言われたとしても、100%のうちの1%ぐらいは売名行為っていう意識もあるのかもしれない。でも、その1%だけの企みがあるのは許せない!ってなっちゃうと、もうダメですよ。だって。
(サンキュータツオ)そうだね。
個人の悪徳は公共の利益
(プチ鹿島)だから昔、僕すごくわかりやすい言葉で、「個人の悪徳は公共の利益」っていう言葉があるんです。それ、すげーいまこそ僕、考えた方がいいと思うんです。だって八百屋さんとかがね、ライバル店の八百屋さんとかに負けないように安くしよう、安くしようと。で、絶対に儲けてやろう、お屋敷を建ててやろうって。悪徳っちゃあ悪徳じゃないですか。自分さえ儲けられればいい。でもそれって結局、周りのコミュニティー、地域社会に役立っている。「あの八百屋さんに行けば、安く買える」って。ねえ、その地域が幸せになるんだったら、最終的にはデカい方を見た方が。そんな、「あいつ1%、2%いやらしいところがあるから許せねえ!」ってなったら、全部不謹慎になっちゃいますよ。(サンキュータツオ)あとは、みんな偽善とか売名行為に対して、すごくアレルギーがあるなって。
(プチ鹿島)だから潔癖ですよね。
(サンキュータツオ)でもね、資本主義社会ってそういうことだと思うんですよ。
(プチ鹿島)そう。だから、いかに自分のことも含めて、自分がじゃあ潔癖じゃないのか?っていうのを考えれば……
(サンキュータツオ)そう。「お前はそんなに潔癖なのか? 人を批判するほど、お前はきれいなのか?」っていうのはあるんですけど。たとえばね、環境問題とか、CO2削減とか、そういうものにお金を払っている。これはだから、エコなことに投資をしている会社っていうのは、ブランディングできるじゃないですか。じゃあこれ、すごく局地的に言えば、売名行為ですよ。
(プチ鹿島)そうですよ。
(サンキュータツオ)だって、経済的ではないわけ。経済的ではないけど、環境を大事にすることによってその会社の価値が上がるっていう。これは経済のシステムじゃないですか。だから別にタレントは売名行為になろうが偽善だろうが、別にいいじゃんっていう。
(マキタスポーツ)俺、いまタレントとかがああいうことをやるべきだとも思うし。で、なんでそういう風になっているのかというと、理由も割とはっきりとしていると思うんだけど。タレントさんとかって、昔みたいに悪いことできないじゃないですか。
(サンキュータツオ)うん。もうできないよ。
(プチ鹿島)むしろ、社会のお手本を求められる。
(マキタスポーツ)「悪いこと」って言ったらあれだけど。たとえば、二号さん、三号さんって愛人を囲って、みたいなこととかが……
(サンキュータツオ)桂文枝師匠が怒られるんだもん。
(プチ鹿島)いわゆる一般社会、日常の社会とは別のね。
(マキタスポーツ)だから、その中で悪いことができなくなったら、いいことでって。欲望の総量がすごい人たちだから、いいことをやりますよ。で、それで、本当は「個人の悪徳は公共の利益」よろしく、自分のところで巡り巡って。それは投資としては悪いですよ。はっきり言って。そんなに回収はできないんだけど、絶対にそういう善行とかをやってれば自分のところに巡り巡ってくるっていうことを考えたっておかしくはないじゃないですかっていう。
(サンキュータツオ)だって、「情けは人のためならず」ってそういうことでしょ? これ、自分のためにやっているって、偽善でも何でもなく、自分の経済のための話だもん。
(マキタスポーツ)だって名誉欲とか欲望がすごい強いから芸能人やってるんだもん。そしたら、善行だってやりますよ。自分のビジネスのためには、やりますよ。でも「ビジネス」って言うと、すごく悪く聞こえちゃうけど、ただそういうもんだもん。芸能人って。
(プチ鹿島)あとは、あれですよね。どこまで人の野心とか生々しさとかギラギラしたものを認められるか、許容できるかっていうことだと思うんですよ。だから、「お主も悪よのう」でどれだけ許せるか。それが完全に法律とかを超えたら別ですよ。だって乙武さんとかだって、たしかにああいうことだけど、裏を返せばすごくエネルギッシュで野心家で。「野心家」って言えばすごく悪い言葉かもしれないけど、俺は政治家を目指す人に取っては、ものすごく大事なことだと思うわけ。
(サンキュータツオ)うん。
(プチ鹿島)で、最終的に「お主も悪よのう」。で、「結果をどれだけ出してくれたの?」で。それが素晴らしい結果であれば、いいじゃないですか。
(サンキュータツオ)政治家は潔癖じゃあ……じゃ、田中角栄は本当に潔癖だったんですか?っていう話になっちゃうよね。
(マキタスポーツ)田中角栄のいまのもてはやされ方っていうのもすごいよね。
(プチ鹿島)あれもね、わかるんですよ。政治家が小粒になってさ。で、スケールが小さくてさ。そんな時に田中角栄みたいな人がいれば、それは昭和ロマンでさ、憧れると思うんだよ。でもね、あの田中角栄ブームに抜け落ちているのは、当時、じゃあ角栄はどう言われていたんですか?っていう。俺、覚えているけど、80年代の末期なんて、「このまま田中角栄支配が続いていたら、もう日本の未来はない」って。すごい閉塞感たっぷりだったんです。
(マキタスポーツ)うん。
(プチ鹿島)だからみんなそれを忘れちゃって。それはしょうがないよ。歴史って美化されるから。でも、田中角栄の秘書の早坂茂三さんとかが書いた本を読むのは、僕も大好きですよ。だって、ひとつの戦国武将の話ですからね。
(サンキュータツオ)そうだよね(笑)。
(プチ鹿島)そう。田んぼにわざと新しいスーツでじゃぶじゃぶ入っていって、「おばあちゃん!」っつって。一度会ったおばあちゃんの名前を言ったら、もうおばあちゃんは感激するに決まっている。もう、武将の話だよ。じゃあそういう人たらしがいま、いるのか?っつったら、たしかにいないから。それに対しての郷愁はあるけど、過去は忘れちゃうんだよね。
(サンキュータツオ)そうなんだよ。だから、僕、田中角栄って戦後日本の父性だと思うんですよ。お父さんだと思うんですよ。で、お父さん、さんざん生きている間は「嫌だ、嫌だ」って言っていて。「このままじゃ育たないよ、俺だって」とか言ってるのに、死ぬと「お父さん、いい人だったな」みたいないまの風潮もまた気持ち悪いけどね。
(マキタスポーツ)もう一方でさ、田中角栄がなぜパージされていなくなっちゃったか?ってことだって、日本的な仕組みが生んだことかもしれないじゃないですか。だから俺、やっぱり最近、歳をとってきたからかすごい思うんだけど、無常っていうところとかをすごく思うんですよ。なんか、「もののあはれ」というか。たとえば、田中角栄のこととかも10年、20年たったら忘れていくじゃないですか。
(プチ鹿島)うん。
(マキタスポーツ)これ、だから俺、よく言えば日本人的な特性として、そういうメンタリティーっていうのは、こういう脆弱な土地に住んで……つまり、地震が昔からあったり、火山の上に生活が。四方が海に囲まれて。かと思えば、温暖湿潤で緑が常に絶えずあって。四季があって、水源が豊富にあって……っていう。住みいいんだか、住みにくいんだかわからないようなところに随分前から住んでいて。天変地異、水害の類のようなことがあって。「ああ、全部台無しだ」っつって。
(サンキュータツオ)うん。
(マキタスポーツ)で、リセットしちゃった時に、じゃあどうやって前を向いて歩いて行くかっていう時に、「永遠ってものはないですよ」とかっていうものを割とポジティブに解釈して、いい意味で曖昧模糊としていい加減な態度でそれに接することによって前を向けるとかってことが、ひとつには無常っていう観念の中に含まれていると思うんですよ。だから、あれだけすっげー超ヤバかった平家だって、ずっと泰平の世が続くわけではなかったわけで。
(サンキュータツオ)「平家ヤバい」とか言っていたのにね。
(マキタスポーツ)「平家超ヤバい。平家に乗るでしょ!」って言っていた時代だって、「ああ、平家おごっちゃったね」って。あれだけずっと永遠に続くものもなくなっちゃうんだねって。
(プチ鹿島)「おごっちまったね!」って。
(マキタスポーツ)で、そういうことを思えば……
(プチ鹿島)専門家が同じ態度でした。僕、2年前、3年前ですか? マグマ学者の巽教授っていう神戸大学かどこかの先生とイベントでお話を聞いたんですよ。先生の書いた本を事前に読んでいこうっつったら、温泉に入った話とか、美味しい食べ物をいただいた話が半分ぐらいなんですよ。
(サンキュータツオ)(笑)
(プチ鹿島)というのは、やっぱりこの国。火山と地震の国に生まれた以上、そのおかげで温泉もあるし、食べ物もあるわけだから。それをいただくしかないと。で、書いていることはすごいんですよ。やっぱり、大火砕流的なものが日本の歴史だと、5500年に1回のペースで続いているんですって。ところが、前回の5500年前からそのペースで計算すると、もう7500年ぐらいたっているんですって。ということは、もう2000年オーバーしてるわけです。だからロシアンルーレットの弾丸がどんどんどんどん減っているわけですよ。
(サンキュータツオ)うん。
(プチ鹿島)だからその先生の話を聞くと、すごく怖くなるわけですよ。僕もお客さんも。で、「よくこんなニコニコ話ができるな」と思ったら、「いやいや、でもひとつの救いは、地球の何千年、何万年というスパンと我々の人生の何十年っていうスパンが重なったら本当に不幸だけど、重ならない可能性を信じるしかないし、重なるとしても温泉とか食べ物とか楽しもうよ」っていう。僕はそういう……
(サンキュータツオ)楽しめる時に楽しむっていう。
(プチ鹿島)だからもちろん今回、九州でこういうことがありましたけど。だからしょうがないっていうんじゃなくて、一方でそういう無常観も抱えつつ、あとはじゃあ目先のね、正しく怖がるとか対策するっていう。そのバランスじゃないですかね。
(マキタスポーツ)その無常観で、なんでもかんでも「しょうがねえ」って言うことではないんだよね。だからひとつの見方とか考え方として、だと俺は思うよ。だって俺、そんな学者先生じゃないからさ。1万年単位で見てねえもの。
(プチ鹿島)そう。でも1万年単位で見ている人が、リアルな生活になると温泉とか美味しい食べ物をずーっと本に書いているんですよ。
(サンキュータツオ)それはだから、悟りだよね。だからこういうちょっと混迷した時とか、昂ぶっている時って、やっぱりみんな普通だったら、普通の国だったら宗教とかにすがるわけでしょう? それこそ昔、学がない時代とかはやっぱり仏教とか、あるいはキリスト教とかが救ってきたわけですよね。ただ、この国にはそういう宗教的な、一神教的なものがないから。
(プチ鹿島)うん。
(サンキュータツオ)それは「正義」っていう宗教とかね、飛びつきますよね。ゾンビ化していくよね。
(マキタスポーツ)なにに救済されるか?っていうことで言うと、いま、悪意というのもおかしな話だけど。「南無阿弥陀仏」って唱えていれば絶対に極楽浄土に行けるっていうぐらい簡単なものじゃないと飛びつけないと思うんだよね。
(サンキュータツオ)だからいま、その「南無阿弥陀仏」が「不謹慎」なんだろうね。
(マキタスポーツ)そう。不謹慎のそういうお経を唱えるみたいなところがあると思うんだよ。
<書き起こしおわり>